今般30年以上経年したシルクの上海緞通をクリーニングすることになりましたので中国の手織り絨毯に付いてチョット書いてみます。相当酷い汚れのまま放置していたもので捨てようかとも思った程の品で有りますのでイランからのクリーニング職人の腕の見せ所ですね。
中国の手織り絨毯と言えば日本では緞通と呼び江戸時代末期に日本でも緞通を参考に鍋島・赤穂・堺緞通と言った日本製手織り絨毯が生まれました。緞通と言う言葉は日本で作られた呼び名で中国では地毯ですので中国では緞通は現在正しくは中国地毯です。其の中国地毯自体も千年以上も前にペルシャの絨毯を参考に作られたとされていますが、判然とはしません。明朝(1368~1644年)や清朝(1644~1772年)の時代には宮廷絨毯が作られ紫禁城を飾っていたようです。1500年後半~1700年代に最も隆盛に作られていたのは確かの様です。北京の冬は寒く絨毯は必需品であったのでしょう。
2021年にオークションハウスのクリスティーズで20㎡の大きさの五爪の龍の柄の明朝の宮廷絨毯が774万usdで落札され話題になりました。明代特有の絹地にウールパイルで織られておりこの時代五爪の龍は皇帝以外には許されていませんでしたので玉座を飾っていた事が判ります。面白い事にペルシャ・サファビー朝の宮廷絨毯黄金時代に中国でも宮廷絨毯黄金時代を迎えていたのですね。
現在僅かに残って居るこの時代のクラシカル・チャイニーズ・ラグ・宮廷絨毯は欧米のコレクターの垂涎の的であり米国のニューヨーク・メトロポリタンやワシントン・テキスタイル美術館、英国のヴィクトリア&アルバート美術館などに少数ですが、収蔵されている様です。
日本では1980年代になるとバブル経済に乗ってパキスタン・トルコ・イランなどから次第に手織り絨毯が一般的に輸入されるように成りましたが、それ迄は手織り絨毯と言えば中国段通が、圧倒的主流でしたし20世紀までは高級絨毯として中国段通を買われた方が多かったのではないでしょうか?
当時は天津・北京・上海・青島緞通と言った中国の東の都市名を冠した絨毯で厚ぼったいウール素材が殆どでシルク製はかなりの高額品で流通量も少なかったと思います。近年は産地も河北省や河南省・甘粛省・四川省・青海省辺りを中心に作られて居りデザインも素材も色々と富んでいる様です。
中国緞通は約30cm角に120段・150段・200段・300段と縦糸・緯糸が積み重なる本数で質を表します。ペルシャ絨毯のノット数の様なもので数が多くなれば成る程、糸が細くなり結び数が増えますので高価になります。ウールは通常120段・150段程度がポピュラーで300段などはシルクの中でも特級品に成ります。
現在中国手織り絨毯は、チベット自治区やウイグル自治区の手織り絨毯も含まれますので絨毯大国ですね。
産地は国土の広い中国ですので都市から人件費の安い田舎へ次第に移り、材質はウールもシルクも豊富で手結びからフックや機械織り迄全て取り揃え、デザインと言えばオリジナルの中国緞通独自の柄から世界中の絨毯のコピー(トルコのヘレケ・ペルシャのイスファハン・仏オービュッソンや英アーツ&クラフツ)迄作っています。絨毯の輸出量はインドに次ぐ世界第2位です。
お使いください!!手織り絨毯
フロムギャッベ
*龍の体は、角が鹿、耳は牛、頭は駱駝、目は兎、鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎、腹は蜃(蛟)、うなじは蛇と9つの動物から出来ていると言われています。龍は鳳凰や麒麟と共に古代中国から存在する架空の動物で有り神獣で水を支配する縁起の良い存在です。日本の神社の手水が龍の口から流れ出るのもそんなルーツと思います。何故か英語ではドラゴンと訳されますが、根本的に両者は異なります。身体的な龍とドラゴンの違いも羽の有る無しが有りますが、西洋のドラゴンは中世を舞台にしたファンタジー映画に悪の手先として良く登場して空を飛び火を噴き破壊する悪獣と捉えられています。
後に龍は天や皇帝の権威の象徴となり紫禁城には9頭の龍の装飾が壁に施されたり皇帝の衣服にも装飾として使われる様になりました。まさにクリスティーズの五爪の龍の絨毯は玉座に相応しい絨毯です。幅5メートルの金色ベースの地には波模様、その上には双璧の龍がいて空には雲と言った吉祥の図案です。